娼婦のようにさりげなく(1)

 未明、近所のセブンイレブンにて、ネットで注文してすでに先週末届いていた本4冊を受け取る。4冊中、3冊が音楽関連本。ジョン・ケージ『サイレンス』、エリック・タム『ブライアン・イーノ』、マイケル・ナイマン実験音楽―ケージその後』(いずれも水声社)。もう1冊は兵頭二十八・小松直之『日本の高塔』(四谷ラウンド)。
 『サイレンス』はたしか『ダ・ヴィンチ』かどこかで中谷美紀が好きな本の一冊として紹介していた。いずれの音楽本も結構な値段なのだが分厚くて読み応えも使い出もありそう。
 『日本の高塔』は日本中にあるさまざまな塔――それこそ電波塔からモニュメントや遊具タワーまで幅広く――を紹介したものなのだが、まず、著者が軍事評論家の兵頭二十八(共著者の小松はマンガ家)というのが面白い。ゆえにいきなり日本国内ではなく、日露戦争で戦死した両軍将兵を慰安するため旅順に建てられた「表忠塔」なんてのも登場する。まあ日本人が建てたものには違いないが。さらにそれと並んでPL教団の「大平和祈念塔」(大阪・富田林)が紹介されているのがまた愉快だ。なお兵頭は、このモニュメントがすごく目立つのに(何せ180メートルもの高さがあるのだ)観光ガイドなどでは一切無視されていることに立腹している。昨年末出た五十嵐太郎の『新宗教と巨大建築』(講談社現代新書)にはこの塔は紹介されていたが、五十嵐が指摘しているように新宗教の建物って本当に無視されまくりだからなあ。
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 そんなこんなで結局、今日も徹夜しちまったよ。どうでもいいが、うちのCDコピー用のソフトは何度やってもCDをコピーできない。一体どうなってるんだ。
 きょうは一日中、アタマの中でぐるぐると昨晩何度も繰り返し聴いた黒沢年男の『時には娼婦のように』と近藤真彦の『ギンギラギンにさりげなく』が流れっぱなしであった。
 考えてみると、最近めっきり『時には〜』のようなアダルト歌謡というものがなくなった。やっぱり買い手がほとんどガキしかいなくなったレコード市場でその手の歌を出したって売れないんだろうなあ(いやそんなマーケットで、100万枚単位で売れるCDが何本もあるというのも、すごいといえばすごいか)。
 ちなみに『時には〜』の作詞・作曲はいまや直木賞作家のなかにし礼だが、『ギンギラギンに〜』の作詞者である伊達歩も後年、伊集院静の名で直木賞を受賞している。夏目雅子とはこれを作詞したころにはもう出会ってたんでしょうかねえ?(聞くところによれば、夏目雅子は「伊集院さんは絶対に直木賞を獲る」とあちこちに触れ回っていたらしい。しかし、それが現実のこととなったのが彼女の死の7年後になろうとは……合掌)
 正午前、これまた先日ネットで注文したビデオ『Pink Lady...And Jeff』全2巻が届く。これはタイトルにある通り、1980年にピンク・レディーが出演したアメリカのテレビ番組を収めたもので、昨年ビデオ化され、モンドマニアのあいだで話題になっているという(ジャケットももろモンドビデオっぽいし)。
 さっそく封を切ってとりあえず1巻を見る。う〜ん、ぼくは英語はさっぱりわからないが、これはひどい。けれどある意味、すっごく面白い。
 リアルタイムでこれを見たアメリカの日系人には「国辱」とのレッテルまで貼られたらしいが、たしかに日本の女の子がやにわに浴衣を脱ぎ、超ビキニという出で立ちで、アメリカ人司会者をむりやり風呂に浸からせるといったギャグは、「トルコ風呂まがい」(当時の日本の雑誌の見出しより)と非難されてもしょうがねえか。しかもその風呂からは力士が浮上してきて、さらに司会者を驚かせるし……ベタすぎるってーの。他の場面でも「日本での私たちのコマーシャルをお見せします」と二人が前置きして(たぶんそう言ってたんだと思う)、突然、金鳥蚊取りマットのCMがインサートされるのだが、こういうのぼく、本当に好きなんだよなー。
 やっぱ日本の20世紀末を象徴する歌手って、山口百恵じゃなくてピンク・レディーなんだと思う。何つーか、山口百恵的なアイドルは彼女の引退後ついに現われず(一時期の中森明菜はそれを目指してたのだろうけれど、結局失敗しちゃったでしょ)、その一方でピンク・レディーの方法論を踏襲、発展させたアイドルは続出している――例をあげるならそれが80年代後半におけるおニャン子クラブWinkであり、90年代前半における森高千里東京パフォーマンスドールであり、そして現在におけるモーニング娘。であると。そのわりにはピンク・レディーってまともに評価されてないのな。そこらへんの謎について、今度の『ZAMDA』の原稿では迫ってみたいと思っております*1

*1:【2009年1月28日追記】『ZAMDA』はこの日記執筆当時僕が編集人を務めていたミニコミ誌。ピンク・レディーに関する論考はその後、2002年12月に刊行した同誌第10号(現在品切れ)にて発表している。当該記事の一部は当ブログのこのエントリに転載しているので、興味のある向きは参照されたい。