時代は「STARBUCKS COFFEE」から「BECAUSE FUCKS」へ(なんだか)

阿部和重の新作『シンセミア』刊行記念で、当の阿部氏のほか、同作連載時(掲載誌は『アサヒグラフ』〜『小説トリッパー』)に写真を担当した相川博昭氏と、阿部氏の『インディヴィジュアル・プロジェクション』の表紙写真を撮った常盤響氏がトークライブを行なうと聞いて、午後から青山ブックセンター本店へ。
意外にも席に空きが目立った。トークのほうは、まず阿部氏と両氏の出会いについて。阿部氏と相川氏は日本映画学校での同級生なのだが、常盤氏と阿部氏はおなじく学生時代に相川氏を通じて知り合ったという。『インディヴィジュアル〜』の表紙もそうした以前からの交友から生まれたものなのだ(あの表紙の写真は、常盤氏が撮った初めての写真だというから驚く)。
ちなみに、以前『噂の真相』で「阿部和重渋谷系などと呼ばれているが、学生時代はマントに下駄履きという古風な格好で学校に通っていた」みたいなことが書かれていたが(たしか文芸誌編集者による覆面座談会か何かででしたね)、阿部氏によればあれは実は相川氏のことだったらしい。
その後の話題は小説の内容よりも(まだあまり完読していない人はいないだろうという判断からか?)、連載時の相川氏の写真がメインで、スライドで写真を順々に映すとともにその撮影裏話みたいなものが紹介されていった。
特にぼくの目を惹いたのは、街頭にある様々な看板から一字一字ロゴを撮り、いわゆるベタ焼きで現像するとまったく違う言葉に並べ替えられているという写真である。たとえば「STARBUCKS COFFEE」の看板だったら、「USUCKOURCOCKS」「BECAUSEFUCKS」といった文に並べ替えられているという具合(現物はこれ)。でも、これを雑誌に掲載するにあたってスタバには許可をとったのかしら? まあ、許可をとらずに雑誌に載せたとしたら版元の朝日新聞社は肝が据わってるし、もしスタバがOKを出したとするならすごい度量の広さだと思うんだけど。でも、ベタ焼きによる連続写真って本当に一発勝負だよなあ。一カットミスっただけでもう一シートがパーだもんなあ。それをここまで大量に撮り続けた相川氏はまさしくプロ中のプロだ。

ところで、『シンセミア』の冒頭では、第二次大戦後のアメリカでの小麦の余剰対策として日本に小麦が大量に輸出されパン食が普及したという時代背景とともに、舞台となる神町のパン屋のルーツが語られているが、これを現在放映中のNHKの朝ドラ『てるてる家族』と重ね合わせるのも一興かと。両者におけるアメリカはちょうどネガとポジの関係にあると思うのだが。