ベトナム「敗北」の産物としてのスペースシャトル計画とその終了

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20040115i102.htm
ブッシュが新たな宇宙探査計画を発表する。ブッシュとしてはケネディが発表したアポロ計画を意識してのことだろうが、この時期にこういう発表するのは、選挙対策イラク戦争処理の泥沼化の隠蔽と受け取られても仕方がなく、かえって逆効果ではないか。だいたいケネディがあの「60年代が終わるまでに人類を月に送る」という有名な演説を行なったのは大統領就任直後なのだから、その点ではブッシュと大きく違う。また、ケネディの発表したアポロ計画があれだけ支持されたのは、ケネディという若き大統領(選挙で選ばれた大統領としては史上最年少)への期待もさることながら、60年代初頭というベトナム戦争泥沼化以前の(そして当然ながらケネディ暗殺以前の)まだ未来に明るい展望の持てた時代だったからだろう。
ところで、ぼくが今回のブッシュの発表に対して思ったのは、選挙対策イラク戦争との関連づけ以外にも、彼はいよいよベトナム戦争の「敗北」という忌まわしい記憶からをも脱却を図ろうとしているのではないか、ということだ。
そもそも今回の新たな宇宙探査計画の発表とともに終了が決まったスペースシャトル計画は、ベトナム戦争アポロ計画があまりにも莫大な費用がかかりすぎ、アメリカの財政を圧迫するにいたったことから、より効率のよい宇宙探査の手段が求められた結果発案されたものだった。こうして考えてみると、スペースシャトル計画というのは、ニクソンが打ち出したドル・金交換の一時停止――いわゆるドルショックとともに、ベトナムでの「敗北」後におけるアメリカの経済対策の一環でもあったわけだ(実際に米軍がベトナムから撤退するのは、ドルショックの翌々年、アポロ計画打ち切りの翌年、73年のことだが)*1
そんなベトナムでの「敗北」の影を色濃く落とすスペースシャトルの存在は、ブッシュにとっては以前よりいささか気がかりなものだったのではないか。それに加え、昨年2月にはスペースシャトルの墜落事故(いや、もはやそんなことは多くの人が忘れてしまっているような気がするが)が起きた。この事故が決定打となり、スペースシャトルに替わる新たな計画が検討されたと考えても、あながち間違いではないかもしれない。いわばこれまでの忌まわしい記憶をすべてリセットして、アメリカの威信を取り戻すべく発表されたのが今回の計画だといえるのではないだろうか。
それにしてもケネディアポロ計画を髣髴させる新たな宇宙開発計画の発表を、17歳の時にケネディと会って大統領になることを決意したクリントンではなく、ブッシュがしたというのがぼくにはちょっと意外だった。ちなみにケネディは自身がその実現を宣言した月着陸を見ることなく不慮の死を遂げたが、皮肉なことに初の月着陸から帰還した宇宙飛行士たちを出迎えたのはケネディの宿敵・ニクソンだった。とすれば将来、月、あるいは火星から帰還した飛行士を大統領として迎えるのは、ブッシュが目の仇にしているであろうヒラリー・クリントンだったりするかもしれない*2

*1:なおスペースシャトルの初打ち上げは81年4月12日のこと。これはちょうど就任したばかりの大統領レーガンの暗殺未遂事件から2週間後のことであり、スペースシャトルにはその登場時からなんとなく暗い影が落ちている。

*2:だからといって、ここで「ゼロ・ファクター」――ゼロのつく年に選ばれた米大統領は任期途中で死亡するというジンクス――なんてトンデモな説を持ち出す気はありませんが。だいたいあれはレーガンの暗殺未遂によって回避されたはずなので。