上記コメント欄にて栗原さんから、椎名桜子よりも《篠原一(1993年文學界新人賞)を第一次美少女作家ブーム(とか勝手に命名しますが)のキーパーソンと見るに100ワタヤ》という指摘を受ける。ぼくとしては椎名桜子と坊っちゃん文学賞を両者ともマガジンハウスがらみということで系統だててみたつもりだったのだが、よく考えたら椎名桜子はデビュー時にはすでに美「少女」ではなかったわけだから、今日の状況の直接的な起源はやはり篠原一のデビュー*1に求めたほうが適切かもしれない。
とそんなことを考えていたら、ちょっと近年の少女作家の系譜を整理したくなって、不完全ながら以下のような年表をつくってみた。
1978年
中沢けい(18歳)「海を感じる時」で群像新人賞受賞
松浦理英子(20歳)「葬儀の日」で文學界新人賞受賞
※90年代半ばにコギャルブームの中核をなす世代が誕生
1979年
※川西蘭(19歳)『春一番が吹くまで』(前年度文藝賞応募作)でデビュー
1981年
堀田あけみ(17歳)「1980アイコ十六歳」で文藝賞受賞
1983年
※結城恭介(18歳)「美琴姫様騒動始末」で小説新潮新人賞受賞
※フジテレビで『オールナイトフジ』放映開始、女子大生ブーム
※堀田あけみ「1980アイコ十六歳」が今関あきよし監督・富田靖子主演で映画化(『アイコ十六歳』)
1984年
※平中悠一(19歳)「"SHE'S RAIN"」で文藝賞受賞
1985年
※おニャン子クラブデビュー
1987年
鷺沢萠(18歳)「川べりの道」で文學界新人賞受賞
1988年
※椎名桜子、“処女作準備中”という広告をマガジンハウスの雑誌に掲載したのち、『家族輪舞曲』でデビュー
1991年
中脇初枝(17歳)「魚のように」で坊っちゃん文学賞受賞
1993年
篠原一(17歳)「壊音 KAI-ON」で文學界新人賞受賞
巌谷藍水(18歳)「ノスタルジア」で坊っちゃん文学賞受賞
※渡部直己・スガ秀実*2『それでも作家になりたい人のためのブックガイド』刊行
※高橋源一郎「史上最強の作家をつくる」(毎日新聞「瞠目新聞」)
※「コギャル」という語が初めてマスコミに登場する
1995年
※HIROMIX(19歳)が『Seventeen Girl Days』でキャノン写真新世紀グランプリ受賞
1996年
※偽十代作家として桜井亜美が『イノセント』でデビュー
※村上龍『ラブ&ポップ』刊行。98年、庵野秀明監督で映画化
※コギャルブーム、ピークを迎える
1997年
佐浦文香(17歳)「手紙 The song is over」で小説新潮長篇新人賞受賞
※酒鬼薔薇事件、14歳の犯罪が議論を呼ぶ
1998年
※『文藝』が「J文学」というキャッチフレーズを提唱
※三好万季(15歳)「毒入りカレー殺人 犯人は他にもいる」で文藝春秋読者賞受賞、翌年単行本『四人はなぜ死んだのか』として刊行
※モーニング娘。メジャーデビュー
2000年
島本理生(17歳)「シルエット」で群像新人賞受賞
佐藤智加(17歳)「肉触」で文藝賞優秀賞受賞
飯塚朝美(17歳)「ミゼリコード」で文學界新人賞島田雅彦奨励賞受賞
D[di:]『ファンタスティック・サイレント』でデビュー
※高速バス乗っ取り事件など17歳が起こす事件が相次ぎ、「一七歳」がこの年の日本新語・流行語大賞のトップテンに選ばれる
2001年
綿矢りさ(17歳)「インストール」で文藝賞受賞
※加藤千恵(17歳)短歌集『ハッピーアイスクリーム』刊行
2002年
※『広告批評』4月号特集「十代のコトバ」に島本理生、綿矢りさ、加藤千恵、三好万季らのインタビューが掲載される
2003年
島本理生「リトル・バイ・リトル」で野間文芸新人賞受賞(史上最年少)
金原ひとみ(20歳)「蛇にピアス」ですばる文学賞受賞
浅井柑(18歳)「三度目の正直」で坊っちゃん文学賞受賞
佐藤智加「壊れるほど近くにある心臓」が三島賞候補に
※羽田圭介(17歳)「黒冷水」で文藝賞受賞
※ライトノベル誌『ファウスト』創刊
※綿矢りさ「インストール」がみづき水脈によりマンガ化。04年には片岡K監督・上戸彩主演で映画化予定
2004年
綿矢りさ『蹴りたい背中』、金原ひとみ『蛇にピアス』が芥川賞受賞(史上最年少)
しかしこうしてみると1978年生まれを中核とする(というのはあくまでもぼくの主観だが)コギャル世代というのは、意外なことにあまり文学の世界にはいないような感じを受ける。いや、もちろん20代になってから作家デビューした女性は何人かいるのだけれど、しかし真の意味でのコギャル世代によるコギャル小説っていまだに出てきていないんじゃなかろうか。たとえば全共闘世代における村上龍の「限りなく透明に近いブルー」や三田誠広の「僕って何」みたいに、象徴的に語れるような作品が、まだこの世代にはないんじゃないかという気がする。その代わり、コギャルと同世代の男性作家――たとえば滝本竜彦や乙一など――はライトノベルの世界などから徐々に出てきていて、どちらかというと彼らのほうが世代論的に語られることが多い。このことにぼくは、全共闘と同世代でありながら、まったく別のところから多くの少女マンガ家(いわゆる「24年組」と呼ばれる作家群)が出てきたというかつての橋本治の指摘をふと思い出すのだが……。