http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20040405i512.htm
小泉首相が、今月1日をもって「成田国際空港」と改称され東京からめでたく独立を果たした(その内実は、以前にも書いたように「処分」に近いような感じもするけど……)成田空港のテロ対策の現状を視察。まあ成田空港*1というのは、その特異な歴史ゆえに開港以来、つまりは9・11よりもずっと前から厳重なテロ防止策を実践してきた空港に違いないはずなんだけど。だいたい入場するだけで身分証明書の提示を求められる空港って、9・11以前にはここだけだったわけでしょ。
そういえば最近、鈴木慶一が父親(新劇俳優の鈴木昭生)などと自らの生い立ちについて語った本(鈴木慶一『火の玉ボーイとコモンマン』新宿書房、1989年)を古本屋で見つけて読んでたら、彼の生まれ育った羽田について次のような話が出てきて興味深かった。羽田は言うまでもなく空港を抱える街ではあるけれども、地域と空港にはものすごい格差があるというのだ。たとえば東京オリンピックの際には、近所の住民がステテコとランニング姿で周辺を歩きまわることに対し、国際空港なんだからそんなことはやめろと空港側から苦情が出たという。さらに、米軍基地のある街との比較でこんな話も出てくる。
昭生 ……羽田っていうのはまるで植民地みたいなところだな。
慶一 ただ具体的に支配しているやつの姿は見えない。だから米軍基地がある街の植民地的雰囲気とは違う。/たとえば基地周辺出身のミュージシャンの持つ雰囲気とは、僕はだいぶ違うはずだ。パンタはそうだよ。あいつは所沢で生まれて、おやじが基地で働いていたもんで基地の近くに住んでいて、GIにハーモニカ習っちゃってるやつだからね。ここでは、そういうアメリカ文化との肉体的なつきあいというのはない。アメリカ文化っていっても、まるで飛行機みたいに、さあっと飛んでいってしまうんだ。……/ここだとスチュワーデスを見かけただけで大騒ぎ。この近くでスチュワーデスが車にひかれたっていうんで大変な騒ぎになった。羽田という街はそういう田舎みたいなところがある。
昭生 空港関係の人は蒲田周辺や銀座、横浜で飲むんだよ。だからここらは無風地帯。
慶一 みんな通り過ぎていってしまうんだ。
昭生 空港は近くだけど隔たっている。だいたい空港線なんていってるのはインチキでさ。羽田空港という駅(現・天空橋駅 ――引用者注)で降りる、そしたら誰だって目の前に空港があると思うじゃない。だけど降りるとそこは空港なんかじゃないんだな。川を隔てたはるか向こうに羽田空港が見える。そのことが地域と空港との関係を示しているよ。
慶一 空港の乗客はこんなところは通らず、モノレールでまっすぐ都心へ向かうわけだし。
いわば基地のある街が城下町的な都市だとするなら、空港というのはドイツなどに見られる城壁都市に近いものがあるのではないか。ようするに羽田空港=羽田、あるいは成田空港=成田ではけっしてなく、羽田空港や成田空港自体がもはや一つの都市なのだ。9・11以降、そうした空港の性格は、全世界的にさらに露骨なものになっているといえるだろう。
そう考えるとかつての羽田闘争や成田闘争というのは、城壁都市に対する一種の戦争というふうに捉えることもできるかもしれない。そういえば、以前、id:d-sakamata:20040227のコメント欄で、id:kokada_jnetさんから中沢厚の『つぶて』に成田闘争のために反対派の運動家がつくった投石機(結局使われないまま警察に押収されたようだが)のことが紹介されていると教えていただき、さっそく本屋で『つぶて』を立ち読みしてみたのだけれども、掲載された写真を見てやはり中世ヨーロッパの戦争で使われた武器みたいだなという印象を受けた。こういった原始的な武器をもって現代技術の結集である空港に戦いを挑んだのが成田闘争のユニークなところだ。
【写真は成田空港を取り囲む塀。2002年、筆者撮影】