「誤配師」ふたたび

http://d.hatena.ne.jp/siken/20040502#1083460107
先月の日記(id:d-sakamata:20040429)の中でぼくがテキトーにでっちあげた「誤配師」という言葉について、id:sikenさんが思わぬ反応をしてくれたので遅ればせながら逆リンク。いや、あれは本当に思いついたままに書いただけのものであって、そんなに深い意味はなかったんだけど(強いていえば「誤配師」という語感のいんちきくささが気に入ったというか)、言われてみると結構いろんなことが考えられるかも。おっ、そうなると、はてな発のジャーゴンとして「儀礼的無関心」に続くヒットを狙えたりして!?(笑)……なんて冗談はさておき、あれを書いた時は五十嵐太郎氏の『群像』での文章を記憶だけで引いたただけだったので、改めてちゃんと原典にあたり引用しておく。

ワラッテイイトモ、』は、無名の新人のわけのわからない作品だけに、そもそも、どういう人がこれを見たいのかも手探りの状況だ。いや、この作品を求める観客を探すために、上映会が行われてきたといえるかもしれない。しかし、その分、この作品は全然だめというものから、なんとも思わない、あるいは凄いという絶賛まで、正直な反応が多様にあらわれる。情報不足、あるいはどのような作品か定義できないがゆえに、実物が思っていたものと違うというコメントも少なくなかった。そういう意味で、かつて『新世紀エヴァンゲリオン』が、普段アニメを見ない観客層にまで受容され、作品と鑑賞者の回路を思い切りずらしたように、『ワラッテイイトモ、』は誤配の可能性に満ちている。現代美術のアワードで選ばれながら、サブカルチャー雑誌の『クイック・ジャパン』52号において顛末をめぐるレポートが掲載されたのも、決して不思議なことではない。
五十嵐太郎「『ワラッテイイトモ、』が受容される場について」、『群像』2004年4月号、太字は引用者)

五十嵐氏は『ワラッテイイトモ、』とともに「誤配の可能性に満ち」た作品として『エヴァンゲリオン』をあげているが、『エヴァ』があれだけの社会現象になったことを考えると実際に起こった誤配も『イイトモ、』の比ではなかったはずだ。そもそも五十嵐氏自身が、本職である建築批評のかたわらで『エヴァ』の謎本をいくつか手がけていたのを、磯崎新氏に「建築をやっている若いやつで、『エヴァ』にハマッているのがいる」と見初められて、磯崎氏の仕事を手伝うようになったという経歴を持っているわけだし(ちなみにこれは五十嵐氏本人が、昨秋に名古屋で開かれた『ワラッテイイトモ、』の一般上映会の会場で話していたことである)。これなどあきらかに誤配のよい例ではないか。もちろんこの場合、「誤配師」にあたるのは磯崎新ということになるだろう。
id:sikenさんは日記の中で「誤配師」という語から、

「誤配」する(される)にも全く期せずしての誤配もありゃ、戦略的な誤配もあるだろう。
何度も何度も意図せずしての誤配をやらかしてくれる御仁、その恩恵はどこかで受けているかもしれない。理由の一つとして無知が挙げられるが、その無知のお陰で意外な効果を生んでくれている。
かたや、狙いすまして「誤配」をうってくる方もいらっしゃるかもしれない。そのどちらも「誤配師」と呼んでもいいだろう。
「あの御大は誤配師だね」と揶揄ともとれる言い方、「あいつは誤配師だからさ」なんて切れ者扱いした言い方だったりやれそう。

といった具合に、あれこれ「誤配師」のイメージをふくらませてくれている。上にあげられたタイプからすると、さしずめ先述の磯崎氏などは《狙いすまして「誤配」をうってくる》タイプにあたるだろうか(あくまでも推測だが)。しかもこの狙いがドンピシャで、磯崎氏が『エヴァ』本で見初めた五十嵐氏はその後気鋭の建築批評家として注目を集めることになるわけだし、おそらく『エヴァ』をめぐる磯崎氏の「誤配」がなければ、ヴェネチア建築ビエンナーレの日本館での展示テーマにオタクがとりあげられるなんてこともなかったはずだ(こちらのほうは五十嵐氏ではなく、森川嘉一郎氏のキュレーションによるものだが、森川氏もまた『エヴァ』ブームによって注目された批評家であるのは周知のとおり)。
そんなわけで、「誤配師」についてはぼくも、今後何か新たに考えが浮かび次第書いていきたいと思う。
そういえばこの件とは全然関係ないけど、id:sikenさんは以前、フジテレビの深夜番組『お厚いのがお好き?』についてまとめていたけれども(id:siken:20040319)、あの番組、どうやら本になるらしいですよ(参照)。HPでは書籍化しないと宣言していたくせに、やはり昨今のあらすじ本ブームに便乗せずにはいられなかったということでしょうか(笑)。
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さっそく上記に対してリファを返していただきました。
http://d.hatena.ne.jp/siken/20040519#1084923890
例としてオウムについてあげられていますが、ここまで話が膨らむと、ぼくなんかがうかつに「誤配師」を名乗っちゃいけないような感じですね。これからデリダあたりでも読んで、もう一回誤配とは何たるか勉強し直したほうがいいかも。ハッ。
お厚いのがお好き?』があらすじ本ブームを締めるのではないかという見方には同意。というか、あの番組が、世に出回っているあらすじ本のパロディとして毎回成立してたというのはあるでしょうね。その意味でも、『お厚いの〜』単行本化でこのブームは本当に打ち止めにしたほうがいいのではないかと。