なめるほどまだよく知らない肖像権

BUBKA』がらみで、肖像権についてふと気になった。最近、電車の車内にも「肖像権をなめてませんか? ―STOP!肖像権侵害」などと書かれたステッカーが貼ってあったりして、見るたびにドキッとしてしまうのだが、そもそも肖像権には、著作権みたいにそれを保護する法律って存在したんだっけ? そう思ってちょっと調べてみたら、いまのところ日本ではそういう法律は制定されていないらしい。これって案外知られていないんじゃないだろうか。
しかし法律がないと結構厄介なこともある。たとえば著作権法においては、引用や報道などのための著作物の利用を例外的に認める条項が設けられている。だが、肖像権に関してはそんな約束事もないわけだから、その権利を厳密に尊重するとなると、引用の範疇で誰かの肖像を使うにしても当人、あるいはその所属する団体の承諾が必要だ、ということになってくる。著名人の写真を書籍や雑誌で使うため承諾をとるという作業は、ぼくも仕事で何度か経験があるのだけれども、担当マネージャーが不在だったり当人が事務所を移籍していてなかなか連絡がつかないということも時折あって結構面倒くさかった。いまはメールのおかげで、多少わずらわしさは軽減されたのかもしれないが、肖像の当人を中傷する意図などまったくなく、本の内容との関連でちょっと引用するのにここまで手間を要することにはやや疑問を覚える。だいたい肖像を撮ったカメラマン(著作者)の承諾は必要ないけど、肖像に写った人物の承諾は必要というのもどうにも腑に落ちない。となれば、肖像をある一定の範囲内であれば自由に使える権利を認める法律があったほうがいいのではないか。それ以外にも著作権との対照でいえば、このサイトの「パブリシティー権についての個人的見解」という項目で(あくまでも「余談」のようだが)指摘されているように、著作権ではちゃんと保護期間が決められているのに対して、肖像権の時間的制限はまだ不明だ。先述のサイトではそれについて、次のような例をあげて説明されている。

有名人のマスコット人形や有名人を元にしたキャラクターを作り上げたとしましょう。その人形やキャラクターの権利を著作権ではなくパブリシティー権で保護できますね。著作権には保護期間がありますが、肖像権の時間的制限は不明です。一般のアニメやキャラクターは保護期間があるのに、有名人を元にしたキャラクターは永遠に保護されるというのはおかしいことです。もし100年後に、美空ひばりさんを元にしたキャラクター人形を作って売るとしたら許諾を得なければなりませんが、鉄腕アトムの人形を作って売ったとしても、保護期間は終了しているので許諾は不要なのです。だとすると著作権法に何の意味が残るでしょう。

著作権のひろばよりhttp://cozylaw.com/copy/wadai/publicity.htm

――と、肖像権に関する法律がないために生じている不便な点をあげてみたものの、しかし下手に法律をつくったらつくったで、かなり窮屈なことになりそうだということもだいたい想像がつく。おそらく「肖像権をなめてませんか?」と世間に問いかけているような人たちの意向を全面的に受け入れて肖像権を保護する法律がつくられたら、『BUBKA』のような雑誌は真っ先に廃刊に追い込まれるだろうし、WEB上で芸能人の肖像を勝手に掲載したとして逮捕者なんかも出てきそうだ。また、肖像権の定める肖像として写真だけでなく似顔絵も含まれることになれば、マンガ家などは厄介なことになるだろう。
最近になって著作権をめぐり立て続けに起きている事例を見るにつけ、肖像権に関しても近いうちに法制化に向けた動きが出てくるのではないかという思いを抱く。なし崩し的に法案を成立させないよう、きちんと見張っておかねば。そもそも、肖像権とは著作権とは違ってすべての人々が有する権利のはずである。それがある特定の人間の利益のためだけに肖像権が必要以上に訴えられるなんてことにならなければいいんだけど……。
【関連サイト】

*1:本文でとりあげた「STOP!肖像権侵害」キャンペーンを展開しているのはどうやらこの団体のようです。余談ながら、Q&Aでの回答ページの最初の項目に掲載されたイラストの編集者氏の描かれ方にちょっとした悪意を感じるのはぼくだけでしょうか。髪を後ろに縛っていていかにもうさんくさげなんですけど……。