Culture Vulture

ライター・近藤正高のブログ

「投稿写真」的なものの終焉、か

投稿写真誌のプライバシー侵害を認定、モー娘ら勝訴(YOMIURI ON-LINE)

 投稿写真誌でプライバシーなどを侵害されたとして、タレントの佐藤江梨子さんや「モーニング娘。」のメンバーら28人が、発行元の「サン出版」(東京都新宿区)と「コアマガジン」(豊島区)などに計約8700万円の賠償を求めた訴訟の判決が14日、東京地裁であった。
 市川正巳裁判長は「通学中の姿を撮影した写真を掲載したり、在籍している高校名を公表したりすることは、プライバシー権の侵害にあたる」と述べ、2社などに対し、佐藤さんら19人に計約1240万円を支払うよう命じた。
 問題となったのは、サン出版の「トップスピード」とコアマガジンの「ブブカスペシャル7」。
 判決は、グラビア写真並みの大きさで掲載された一部の写真について、著名人の氏名や肖像から生じる経済的利益を独占使用できる「パブリシティー権」も侵害したと認定したが、被告が違法と認識していなかったため、賠償は認めなかった。
 また、「いわゆる『追っかけ』や『カメラ小僧』の撮影した写真を買い受けて雑誌に掲載することが、追っかけ活動の横行を助長させている」とも指摘した。

 http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20040714i216.htm

この判決をもって、「投稿写真」的なものというのはついにとどめを刺されたのかなと。まあ『トップスピード』は判決を待たずして昨年休刊してしまったわけだけれども。同誌の元執筆者としてはやるせない。
この裁判が起きたのは、一昨年の暮れも押し迫ったころ(参照)。そもそもこの訴訟の本当の狙いは、某アイドルのフ●ラ●オ写真*1コアマガジンの『お宝マガジン』に掲載されたことに対して牽制をかけることだったが*2、直接そのことを訴えるには逆に自分のところのアイドルを傷つけることになるとの判断で、類似誌である『BUBKAスペシャル』や『トップスピード』が訴えられた――というふうに、少なくともぼくの周辺ではささやかれていた(あくまでも噂にすぎないが、問題の写真が出たのと訴訟が起きた時期はほぼ同じなので、ある程度信憑性はあるように思われた)。この伝で行けば、『お宝マガジン』とは版元が別の『トップスピード』はとばっちりを受けたということになる。だが、訴訟直後にいち早く対応を見せたのは、むしろ『トップスピード』のほうだった(『BUBKA』は訴訟が起きた直後にその問題の写真を堂々と掲載して、挑発的だなと思ったものだ)。何せ、そのおかげでぼくが担当していた読者投稿のコーナーが休載になったのだから。
しかし、『トップスピード』、あるいはその前身である『投稿写真』などといった投稿写真誌とアイドル業界というのは、ある時期まで持ちつ持たれつでやって来たのではないのか。新人アイドルは、まずこの手の雑誌でとりあげられるのが常だったわけだし、ファンもまたそこに掲載されるイベントなどの情報を丹念にチェックしてアイドルを応援してきた。その考えからすると、ぼくが今回の判決で一番引っかかったのは、《いわゆる『追っかけ』や『カメラ小僧』の撮影した写真を買い受けて雑誌に掲載することが、追っかけ活動の横行を助長させている》との指摘である。これって、あきらかに追っかけやカメラ小僧を敵に回してるよな? たしかに「追っかけ」や「カメラ小僧」の中には暴走する者もいるだろう。しかし「追っかけ」や「カメラ小僧」によってアイドル業界が支えられているのもまた事実ではないか。そんな彼らにとって投稿写真誌は情報を得るための重要なツールであり、あるいはファンであることを写真によって表明する場でもあった。その写真もプライベートを撮ったものより、イベントという公式の場で撮られたものが大半だったはずなのだが……。
とりあえずここでは、制服姿のアイドルを撮った写真を雑誌に掲載することの是非を問うことは置いておく。だが、このような訴訟により、投稿写真誌の活動が制限されてしまうことは、長い目で見ればアイドル業界の側にもけっしていい結果をもたらさないような気がする。
それにしても、プライバシー権についてはそれなりにわかるのだけれど、「パブリシティー権」の定義はまだまだあいまいすぎてよくわからない。行使しようという側もちゃんと理解した上でこの権利を主張しているのだろうか? 以前肖像権について触れた際(http://d.hatena.ne.jp/d-sakamata/20040519#p5)にも書いたが、「パブリシティー権」が(法制化されるにしろされないにしろ)ある特定の人たちの利益のためだけに行使されないかどうか、今後も慎重に見守らなければならないと思う。

*1:そもそもこの手の写真を従来の「投稿写真」と同じ範疇でくくっていいのだろうか。この手の写真……いわゆるニャンニャン写真には、もはや、従来の投稿写真にはあった「撮る者=カメラ小僧/撮られる者=アイドル」といった構図は存在しないからだ。こうした写真の流出が近年になって増えているのは、あきらかにデジカメやカメラ付携帯の進化と普及によるものだろう。そのほか『トップスピード』や『BUBKA』についてくわしいことは、『Kluster』vol.3に寄稿した「撮られているのはたしかにおれだが、撮っているおれは一体誰だろう? ―あるいは、なぜ『投稿写真』は生き残れず、『BUBKA』は生き残ったのか」という文章に書いたので、参照していただきたい。モスコミューン出版部のHPでは通販も受け付けていますので、ぜひこの機会にどうぞ!……って結局、宣伝かい!

*2:そもそも訴状が訴えられた側の編集部に届けられるよりも、マスコミでの報道が先だったという。このことからもこの訴訟には牽制という意図が強いことを感じる。