狂気?の昭和9年生まれ
堤義明逮捕のニュースでは、スキー場やゴルフ場の建設など彼がレジャーに与えた影響も取り沙汰されていた。ところで堤義明がコクドの社長に就任した翌年の1965年には日本テレビで『11PM』の放映が始まっているが、同番組の司会者の一人として華々しくレジャーを紹介し、遊び人の名をほしいままにした大橋巨泉は堤義明と同じく昭和9年(1934年)生まれである。ほかにこの年生まれの著名人をあげるなら、堤と同じく近江商人の血を引く田原総一朗をはじめ、筒井康隆、井上ひさし、山田太一、小中陽太郎、愛川欽也、池田満寿夫、長部日出雄、黒川紀章、藤子不二雄A、高坂正堯、さらには石原裕次郎といった具合に、戦後民主主義の申し子、もしくは鬼っ子ともいうべき人々が並ぶ(ここに翌昭和10年1月生まれの倉本聰や大江健三郎をつけ加えてもいいかもしれない)。彼らの中に創成期から黄金期へといたる時期のテレビにかかわった人が目立つのも特筆すべき事柄だろう。
そういえば、以前筒井康隆が『徹子の部屋』で、文壇で言われているものだとして、作家の生まれ年を「肥満の5年、白髪の7年、狂気の9年」と並べ立てたフレーズを紹介していたことがあった(「肥満の5年」には開高健が、「白髪の7年」には石原慎太郎や五木寛之などがそれぞれ代表例としてあげられる)。狂気かどうかはともかく、彼らの多くがその仕事の全体像をつかみにくい人物だということは言えると思う。たとえば田原総一朗はジャーナリストと名乗ってはいるが*1一般的にはテレビ司会者のイメージのほうが強いし、筒井康隆はいまや作家よりも俳優業のほうが本業だし、池田満寿夫にいたっては版画のほか小説や映画なども手がけ言わばマルチタレントのはしりであったわけだし……。こうなると、田原のディレクター時代の作品のタイトルにあやかって、彼らを「あらかじめ本業を失われた昭和9年生まれたちよ」とでも名づけたくなる。
ところで『富豪刑事』の筒井センセは、あのままたいして物語の本筋にはかかわることもなく最終回を迎えるんでしょうかね?