少女作家27年史年表(少女作家25年史年表・改)

速水健朗さんの「犬にかぶらせろ!」でリンクしていただいたおかげで(http://mirror-ball.net/2005/10/10/)、ぼくが以前つくった「少女作家25年史年表」(id:d-sakamata:20040117)を新たにブックマークに追加してくれた人もちらほらいるみたいですね。実はあの年表はその後少し手を加えて、今年の夏に出した個人誌『Re:Re:Re:』Vol.3に増補版を収録しているのですが、いい機会なので、さらに2005年分を追加し、タイトルも「少女作家27年史年表」とあらためて改訂版をUPしておきます。
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1978年
中沢けい(18歳)「海を感じる時」で群像新人賞受賞
松浦理英子(20歳)「葬儀の日」で文學界新人賞受賞。同作は芥川賞候補にもなる
新井素子(18歳)第一作品集『あたしの中の……』(表題作は前年度奇想天外SF新人賞佳作入選作)刊

【関連事項】橋本治桃尻娘』刊/1990年代半ばにコギャルブームの中核をなす世代が誕生

1979年
【少年作家たち】川西蘭(19歳)『春一番が吹くまで』(前年度文藝賞応募作)でデビュー

1981年
堀田あけみ(17歳)「1980アイコ十六歳」で文藝賞受賞

【関連事項】田中康夫『なんとなく、クリスタル』刊/黒柳徹子『窓際のトットちゃん』刊。戦後最大のベストセラーに

1983年
【少年作家たち】結城恭介(18歳)「美琴姫様騒動始末」で小説新潮新人賞受賞
【関連事項】堀田あけみ「1980アイコ十六歳」が今関あきよし監督・富田靖子主演で映画化(『アイコ十六歳』)/島田雅彦(22歳)「優しいサヨクのための嬉遊曲」でデビュー/フジテレビで『オールナイトフジ』放映開始、女子大生ブーム

1984
【少年作家たち】平中悠一(19歳)「"SHE'S RAIN"」で文藝賞受賞

1985年
【関連事項】山田詠美(26歳)「ベッドタイムアイズ」で文藝賞受賞/おニャン子クラブデビュー

1986年
【少年作家たち】竹野雅人(20歳)「正方形の食卓」で海燕新人賞受賞
【関連事項】梅田香子(22歳)「勝利投手」で文藝賞佳作入選

1987年
鷺沢萠(18歳)「川べりの道」で文學界新人賞受賞

【関連事項】吉本ばなな(23歳。現・よしもとばなな)「キッチン」で海燕新人賞受賞(翌年泉鏡花文学賞受賞)。同作品は1989年に森田芳光監督で映画化

1988年
【関連事項】椎名桜子(22歳)、“処女作準備中”という広告をマガジンハウスの雑誌に掲載したのち、『家族輪舞曲』でデビュー

1989年
【関連事項】吉本ばななTUGUMI』(山本周五郎賞受賞)、『白河夜船』刊。いずれもベストセラーとなり吉本ばななブーム起こる。『TUGUMI』は翌年市川準監督で映画化(『つぐみ』)

1991年
中脇初枝(17歳)「魚のように」で坊っちゃん文学賞受賞

1992年
【参考文献】高橋源一郎「史上最強の作家をつくる」(毎日新聞5月13日付夕刊)

わたしのノートには、「史上最強の作家をつくる」方法が百ぐらい書いてあるが、ここではもっとも簡単なやり方を紹介しよう。まず、いちばん重要なのは、その作家のキャラクター設定である。ここは、わたしの好みを押し通し、十五歳前後の美少女をまず発見することからはじめねばならない。西田ひかる六割に、一色紗英三割、それに宮沢りえ一割といった感じの女の子がいれば申し分ない。できれば四ヵ国語ペラペラの帰国子女で、遠くロマノフ王朝の血も混じっていればさらに結構。彼女の発掘にあたってはホリプロもしくは電通の力を借りてもいいだろう。もちろん、美女もしくは美少女を「作家」として売り出そうとした試みがなかったわけではない。しかし、その多くは所期の目的を達成することができずに終わった。なぜか。それは「作品はその作家のオリジナルでなければならぬ」という無意味な自己規制があったからである。わたしの「史上最強の作家」プロジェクトでは、作品はすべて「超一流のゴーストライター」に書かせることにしたい。

1993年
●篠原一(17歳)「壊音 KAI-ON」で文學界新人賞受賞
●巌谷藍水(18歳)「ノスタルジア」で坊っちゃん文学賞受賞

【参考文献】渡部直己すが秀実『それでも作家になりたい人のためのブックガイド』(太田出版)。以下、同書よりすがの発言

『スタ誕』(『スター誕生』―引用者注)と新人賞は、パラレルな問題を含んでいるかもしれない。審査を通過しなければ、その世界では認められないわけですから。でも、『スタ誕』の場合、歌手の卵たちが審査委員の目の前にいるわけだから、「この娘はいいぞ」とか「独特のオーラを持っている」とか、そういうのがわかる(らしい)。たしかに、小泉今日子だってデビュー当時はかわいくないでしょう。それが、第一線で活躍していると、周りのスタッフの影響もあると思うんだけれど、本当にオーラみたいなものが出てくるわけ。/しかし、文芸新人賞の場合、受賞した新人にそのオーラを、編集者なり出版社なりがつくってやれるかっていうと、そう簡単にはいかないと思うんです。活字媒体はテレビなんかよりもその効力は弱いですから。新人の女性作家がたくさん出てきた時期があったけれど、あれだってかわいい娘がデビューしやすいわけ。/(中略)ちょっと前までは、文芸誌の編集者は、半ば本気で、応募作に顔写真を添付させたいと思っていたらしい。でも、文学とはもう少し高級だというコンセプトがあるから、あからさまに顔では選べなかった。でも、実際はいざ選び終わってから、写真を見て「ああ、かわいい娘だ。よかったな」ってことだったんでしょう。

【関連事項】「コギャル」という語が初めてマスコミに登場する(『週刊SPA!』)

1995年
【関連事項】HIROMIX(19歳)が『Seventeen Girl Days』でキャノン写真新世紀グランプリ受賞

1996年
【関連事項】桜井亜美『イノセント』刊。当初は少女が書いたものかと憶測を呼ぶも、やがて著者の正体が某女性ライターであることがバレる/村上龍ラブ&ポップ』刊。1998年に庵野秀明監督で映画化/コギャルブーム、ピークを迎える

1997年
●佐浦文香(17歳)「手紙 The song is over」で小説新潮長篇新人賞受賞

【関連事項】神戸連続児童殺傷事件。容疑者として14歳の少年が逮捕され議論を呼ぶ

1998年
【関連事項】三好万季(15歳)「毒入りカレー殺人 犯人は他にもいる」で文藝春秋読者賞受賞。翌年単行本『四人はなぜ死んだのか』として刊行/『文藝』が「J文学」というキャッチフレーズを提唱/モーニング娘。メジャーデビュー

1999年
【関連事項】高見広春バトル・ロワイアル』刊

2000年
島本理生(17歳)「シルエット」で群像新人賞受賞
佐藤智加(17歳)「肉触」で文藝賞優秀賞受賞
●飯塚朝美(17歳)「ミゼリコード」で文學界新人賞島田雅彦奨励賞受賞
D[di:]『ファンタスティック・サイレント』でデビュー

【関連事項】黒田晶(22歳)「メイド・イン・ジャパン」で文藝賞受賞/嶽本野ばら『ミシン』でデビュー/高速バス乗っ取り事件など17歳が起こす事件が相次ぎ、「一七歳」がこの年の日本新語・流行語大賞のトップテンに選ばれる

2001年
綿矢りさ(17歳)「インストール」で文藝賞受賞

【関連事項】加藤千恵(17歳)短歌集『ハッピーアイスクリーム』刊/佐藤友哉(21歳)「フリッカー式」でメフィスト賞受賞/滝本竜彦(23歳)「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」で角川学園小説大賞特別賞受賞

2002年
綿矢りさ『インストール』が三島賞候補に

【参考文献】栗原裕一郎「『りさたん萌え〜』は圧倒的に正しい!?」(『サイゾー』1月号 http://www.ultracyzo.com/newssource/0201/01.html)/『広告批評』4月号特集「十代のコトバ」。島本理生綿矢りさ加藤千恵、三好万季らのインタビューが掲載される
【関連事項】Yoshi『Deep Love アユの物語[完全版]』刊。もともと2001年より携帯サイトに連載されていたこの小説は、10代の少女を中心に人気を集める/嶽本野ばら下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』刊。2004年に中島哲也監督で映画化(『下妻物語』)/西尾維新(21歳)「クビキリサイクル」でメフィスト賞受賞

2003年
島本理生「リトル・バイ・リトル」で野間文芸新人賞受賞(同作は芥川賞候補にもなる)。20歳での同賞受賞は史上最年少記録
金原ひとみ(20歳)「蛇にピアス」ですばる文学賞受賞
●浅井柑(18歳)「三度目の正直」で坊っちゃん文学賞受賞
佐藤智加「壊れるほど近くにある心臓」が三島賞候補に

【少年作家たち】羽田圭介(17歳)「黒冷水」で文藝賞受賞
【参考文献】筒井康隆三島賞選評」(http://www.shinchosha.co.jp/mishimasho/016/tutui.html)。《近年、某社からやたらに若い女性の書き手が登場するが、本来的に二十歳以前の文学は無理なのである》《出版社はホリプロではない。ティーンエイジャーの女性文学者だけで「モーニング娘。」を作ってどうするのか。大人の読者を馬鹿にした所業としか思えず、架空の想定による彼女たちの追っかけめいた若い文学愛好者など当てにしてはならない》などと少女作家ブームに苦言を呈す
【関連事項】舞城王太郎阿修羅ガール』刊(三島賞受賞)/綿矢りさ『インストール』がみづき水脈によりマンガ化/講談社から『ファウスト』創刊

2004年
綿矢りさ蹴りたい背中」、金原ひとみ蛇にピアス」が芥川賞受賞。綿矢の19歳11ヶ月での同賞受賞は史上最年少記録。『蹴りたい背中』の単行本は芥川賞受賞作としては28年ぶりのミリオンセラーとなる

【少年作家たち】日日日(18歳)、この年から翌年にかけて5つの新人賞を受賞(「ちーちゃんは悠久の向こう」で新風舎文庫大賞、「私の優しくない先輩」で恋愛小説コンテスト・ラブストーリー大賞、「狂乱家族日記 壱さつめ」でえんため大賞佳作、「アンダカの怪造学Ⅰ」で角川学園小説大賞優秀賞、「蟲と眼球とテディベア」でMF文庫J新人賞・編集長特別賞)
【参考文献】渡部直己小谷野敦吉本謙次綿矢りさのしくみ』(太田出版)/神山修一「自分を商品にすること 「美少女作家」の二十年」(『ユリイカ』8月号)
【関連事項】白岩玄(21歳)「野ブタ。をプロデュース」で文藝賞受賞。翌年には芥川賞候補になったほか、日本テレビ系列でドラマ化される/綿矢りさ『インストール』が片岡K監督・上戸彩主演で映画化/鷺沢萠自殺/片山恭一世界の中心で、愛をさけぶ』が251万部に達し、国内作家の小説単行本の最多部数記録を更新/長崎小6女児殺害事件。事件の原因としてネットへの書き込みをめぐる女児同士のトラブルが注目される

2005年
●河崎愛美(15歳)「あなたへ」で小学館文庫小説賞受賞
三並夏(15歳)「平成マシンガンズ」で文藝賞受賞。同賞受賞の最年少記録を更新する。同時受賞は青山七恵(22歳)の「窓の灯」
●水田美意子(13歳)「殺人ピエロの孤島同窓会」で『このミステリーがすごい!』大賞特別奨励賞受賞

【参考文献】「快挙?危機? 新人文学賞 超若年化」(本よみうり堂‐YOMIURI ONLINE http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20051011bk13.htm
【関連事項】NHK総合クローズアップ現代』で特集「ブンガクに異変アリ!?〜台頭する若手作家たち〜」放映(3月7日)/篠原一「19℃のロリータ」(『すばる』8月号)が楠本まきのマンガ「致死量ドーリス」に酷似していると読者から指摘を受け、『すばる』版元の集英社が調査。作者と編集部による協議の末、同誌11月号に盗作を認める「お詫び」が掲載される