東京都千代田区千代田1−1

NHKアーカイブス』で放映されたNHK特集『皇居』(1984年)を見る。本放送時は昭和天皇の御世だが、天皇自身は画面にはほとんど現われず。登場しても声を発している映像は一切出てこなかった。このドキュメンタリーにおいては、あくまでも皇居という場所が主役ということか。
内閣官房から届けられた書類に、昭和天皇が「裕仁」と一枚一枚丁寧に署名していく様子など文字どおり機械的で、見てるほうが緊張するほどだった。ナレーションによれば、こうした署名は一日多いときで15件行なうとのことだったが、この丁寧さと当時の天皇の年齢(82〜83歳)を考えれば15件でも結構な重労働だろう。
さらに宮内庁職員らが行なう古文書の修復作業が紹介される場面で、古文書の虫に食われた箇所を一つ一つ同じ紙質の和紙をちぎってふさいでいくさまを見ていたら気が遠くなった。すべての古文書を修復し終えるにはあと200年はかかるらしい。というかこれ、保管技術の発達していなかった時代には、一旦修復しても、また何年も経てば虫に食われて、それをまた修復して……ということを延々と繰り返していたのではないか。そう考えると、天皇という文化制度が時間を超越したシステムであることを思い知らされる。
そんな番組のなかで唯一人間くささというか俗っぽさを感じたのは、皇居勤労奉仕団の慰労会のシーン。宮内庁楽団の生演奏で勤労奉仕団のおじさんやおばさんたち(というかおじいさん・おばあさんたち)が「大阪しぐれ」(都はるみですな)を歌う様子は、これがカラオケならまんま田舎の町内会である。
そのほか、冒頭で紹介されていた各国大使が信任状捧呈式のため入内する際には馬車が仕立てられる(自動車か馬車か選択できるのだが、多くの大使は馬車を選ぶとの由)ということなど、初めて知った事実も多かった。