コミケ会場にて

コミケ前夜は、『サブヒョン』印刷・紙折を手伝ったのち、ささやかながら友人らと前夜祭を行なったのち(ただし出席者全員酒は飲まず)帰宅。家に帰るとすでに日付は30日になっていた。そのまま明日に備えて寝る……ことができればよかったのだが、自分の個人誌の製本(60冊分)をしなければならず、その作業を夜中3時ぐらいまで行なう。ようやく作業が終わり、すぐ寝ればいいものを、持ち帰ったばかりの『サブヒョン』を読み出したら止まらなくなって、気がつけば時計の針は4時半を回っていた。それから就寝したのだが、結局寝られたのは2時間弱。6時40分ぐらいには起き出して、売る本をカートに乗せるなど出かける準備をする。結局家を出たのは8時ジャスト。途中、中央線が前の電車が新宿駅で故障点検中だとかで大久保近辺で停車しやがったせいもあり、コミケ会場の東京ビッグサイトにはサークル入場時間の終わる9時より15分ほど遅れて入場。りんかい線国際展示場駅からダッシュしたせいで息を切らしながら、精根尽き果てた状態でブースに到着したところ、すでに1時間前には会場入りしていたサークルメイトから、「この世の人間ではないような顔をしてますよ」と言われる。
ま、そんなわけで今回の(にかぎらず毎度のことだが)コミケは睡眠不足の状態で参加したため、あまりほかのサークルにはまわらず、いわゆる「座りコミケ*1となった。
が、一つだけここにだけはあいさつしておこうと顔を出したのが、マンガ家の久世番子さんの出店していたサークルである。実は久世さんはぼくが通っていた高校の一年後輩だったりするのだが、とはいえ会うのはこの日が初めて。唐突に自分はあなたと同じ高校に通っていた者だと告げて名刺を差し出すという、ほとんど同窓会詐欺同然に(違うのは相手をだましてお金を取らないという点だけw)声をかけたにもかかわらず、久世さんは快く対応してくださり、ついでに図々しくも渡したコミケでの自分たちの販売物(個人誌と『サブカル評論』*2)もちゃんと受け取ってくださった。ありがたや。
久世さんは今秋単行本の第一巻が刊行された『暴れん坊本屋さん』が話題を呼び、一躍注目を集めることになった。ぼくも遅ればせながら、同書の紹介記事を地元紙で読んだという母親から電話で教えられて知り、第一巻(ISBN:4403670199*3)を買って読んでみたのだが、いや、面白かった。現役の書店員の目から通して描かれる書店での悲喜こもごものエピソードもさることながら、そこに作者自身の趣味である腐女子ネタなんかを絡めたところが新しいのではないだろうか。
あと、なんとなく思ったのは、この作品は、作者が大都市の大型書店や、あるいは古くから営業している町の小さな書店の店員ではなく、郊外型の書店の店員だったからこそ生み出すことができたのではないか、ということ。これは直感でそう思っただけなので、論理的に説明するのは難しいのだが……。そもそも同作の舞台である書店が郊外にあるとは作中に一言も出てこない。しかし深夜まで営業しているというネームもあることだし、おそらく『暴れん坊本屋さん』の書店は郊外、それも車の街道沿いにあるチェーン店ではなかろうか。この手の書店は最近になって都心にも進出し、ぼくもかなりお世話になっている。何しろぼくのここ最近の行きつけの書店というのは、神保町の三省堂東京堂などを除けばほとんど、中野と四谷にあるあおい書店一辺倒になってしまっているほどなのだ(そういえば、『暴れん坊本屋さん』を買ったのも中野のあおい書店でだった)。このあおい書店というチェーン店の本社は、調べてみるとどうやら名古屋市熱田区にあるらしい。名古屋圏といえばほかの大都市圏にも増して車社会の進んだ地域である(道も広いし、トヨタの本拠だし、その上鉄道の料金も高い……となれば、車社会になるのが当然だ)。街道沿いに郊外へ店舗を広げていく書店チェーンにとってはもっとも適した地域だといえる。ちなみにあおい書店と同様に全国展開し、東京都心にも進出しているヴィレッジ・ヴァンガードも(神保町店ができたと知ったときはさすがに驚いたが)、名古屋市近郊の長久手町に本社をもつ。あおい書店とはだいぶタイプが異なるが、ビレバンも一種の郊外型書店ととらえていいだろう。
というわけで、ここで強引に結論。名古屋圏という独特の土壌が育んだ郊外型書店の現在の繁栄は、ビレバンの全国展開と、久世バン子の『暴れん坊書店』のヒットという、二つの「バン」の功績によって端的に象徴されているのではなかろーか。……って、ここまで膨らませておきながら、結局地口落ちかい!
それにしても久世さんには、やはりぼくの高校の後輩で2005年に芥川賞を受賞した中村文則氏とともに、少しでもあやかりたいものである。
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このほか、コミケではばるぼらさんが当方のブースに現われ、『サブカル評論』の新刊を買われると、風のようにあっという間に去っていった。あ、しまった、ばるぼらさんに『ネットランナー』で当サイトを紹介していただいた御礼を言うのを忘れた!

*1:ほとんどどこにも出かけず家でじっとしたまますごす正月を「寝正月」と呼ぶがごとく、サークル参加したものの、自分のブースで椅子に座ったままほとんど会場をまわらずにすごすコミケのことをぼくはこう名づけた。

*2:何しろ、今回の『サブヒョン』巻末の辞典・サブカルスポット篇では「東海市」という項目をつくり、そこに出身者として芥川賞作家の中村文則氏とともに久世さんの名前もあげていたのだから。

*3:第二巻も来年3月には発売される予定だとか。