DISCOVER TOKYO

 で、僕はといえば、先週末からちょっとした急用(急用に「ちょっとした」などという形容が適当なのかどうかはとりあえず置くとして)で帰郷していて、きょうの夜東京に戻ってきました。今回は経済的な事情から行きも帰りも、新幹線ではなく東名ハイウェイバス(昼行)を初めて利用したのですが、いや、これが思いのほか新鮮でした。
 まず何より、ダブルデッカー(二階建て)で眺めがいい。二階の座席はすべて独立しており(すべての席と席のあいだが離れている)きわめてゆったりしている上、シート自体の座り心地もかなりよかったです。おかげで、バスに対して抱いていた窮屈なイメージが一気に吹き飛びました。
 窓からの眺望も、山あり海ありと新幹線以上にバラエティに富んでいて6時間前後のバス旅のあいだほとんど退屈しませんでした。これは夜行バスだったら気づかなかったことでしょう。とくに由比付近で駿河湾沿いを走る地点での、富士山と海という取り合わせは絶景でした。ほかにも、神奈川県大井町では、周囲の田園風景にはやや場違いにも思える第一生命のビル(大井第一生命館)を発見。このビルの存在を知ったのはたしか猪瀬直樹このコラムだったはずだけど、第一生命が昨年発表した文書(PDFファイル)によれば、くだんのビル内に置かれた大井事業者の再編・移転にともないどうも取り壊される予定のようです。
 で、もっとも今回のバス旅行で印象的だったのは、帰りのバスが首都高に入ったところ。ビルとビルのあいだに押し込んだような道路そのものの形態もさることながら、首都高からあらためて東京の街並みを眺めていたら、人から建物までその密度の高さ――エントロピーの高さというか――に驚かされました。名古屋もここ最近、超高層ビルが増えてはいますが、それはあくまでも名古屋駅周辺とかごくかぎられた地区だけなのに対して、東京都心の超高層ビルは本当に間断なく建ち並んでいるという感じで、その数が尋常じゃない。終点付近の丸の内も、かつての「丸の内マンハッタン計画」(参照)で描かれた構想がほぼ実現したんじゃないかと思えるくらい、いつのまにかこんなにも超高層ビルが増えていたんですね。
 で、終点の東京駅日本橋口に降り立てば、そこにも大きなビルが……「サピアタワー」という一昨年竣工したビルのようですが、知らなかったなあ。ところで、サピアタワーのサピアというのは、ひょっとしてアメリカの言語学者の名前からとったんですかね?
  ■
 そんなふうに、高速バスのなかから東京を“再発見”したあとだっただけに、今夜のNHKスペシャル沸騰都市」シリーズの最終回「TOKYOモンスター」は大変面白く見ました。
 全通に向けて工事の進む山手トンネル、三菱地所による丸の内の再開発計画、それに対抗するかのような森ビルの六本木の新ビル計画に地下都市構想などとどまるところを知らない都心各所での開発を紹介するにとどまらず、ナイツによる漫才あり、プロダクションI.Gによるアニメあり、てんこ盛りの内容(ナレーションが宮迫博之というのも異色です)。これら開発に対して番組は、どちらかといえば肯定的にとらえられているという印象を受けました。たとえば、都心の高層マンションの45階に住む小学生が出てきたのですが、でもそれって精神形成上どうなんだろう? とちょっと思ったり。
 ついでにいえば、この番組の都市を一種の生物=モンスターとしてとらえるという視点は、別段新しいものでもなくて、すでに1960年代に菊竹清訓黒川紀章川添登などといった当時の若手建築家・批評家らが提唱した「メタボリズム」あたりから存在したものですが。
 それにしても東京湾の埋め立てによって「海」が、超高層ビルの建築ラッシュによって「空」が、さらには「地下」がフロンティアと目され、開拓が進められるなかにあって、フロンティアとしての「郊外」というのは本当に地位が落ちてしまいましたね。2000年前後から続く都心回帰現象は、いわゆる「2003年問題」を乗り越え、いまなおとどまるところを知らないようです。