書評:『草食男子世代――平成男子図鑑』深澤真紀著

 「平成の男子は草を食んででも生きろ!」
 本書における著者の主張はその一言に集約される。
 著者、深澤真紀(まさのり)は現在63歳。本書掲載のプロフィールによれば、作家・深沢七郎の甥を名乗り、青年時代には七郎が埼玉に開いた「ラブミー牧場」で働いていたこともあるというのだが、真偽のほどは定かではない。
 そんな著者が日本人の食生活を見直すようになったのは、いまから30年ほど前、青少年があまりにも肉に偏った食生活を送っていることに危惧を覚えたからだった。肉ばかり食べていては人は怒りっぽくなり、衝動的に殺人など犯罪をおかす確率も高くなる――ここまではベジタリアンにありがちな考え方だが、著者がユニークなのは、そこで一般的に流通している野菜ではなく、野草を食べることを発案したことである。
 「常日頃より雑草のようにたくましく生きたいと思っていた私は、いっそ雑草そのものを食べれば心身ともにたくましくなるのではないかと考えた」
 思い立ったら即実行、著者は自宅近くの道端に生えている雑草を片っ端から採取しては、その草の食用の可否、食べられるのならどんな調理法がふさわしいのかたしかめていった。本書では全編にわたって、この30年間における著者の研究の成果が紹介されている。
 終章において著者は、雑草食こそは男の精力を高め、ひいては現在深刻な問題となっている少子化を食い止める救世主だと強調する。また、わが国の食糧自給率の低下や地球全体での食糧不足にも、雑草食は解決策となる可能性を秘めているという。
 ただし、著者は雑草食を男には勧めても、女には勧めていない。というのも、雑草食の研究をはじめてまもないころに、妊娠中だった妻に雑草料理を食べさせたところ、体調を崩し、けっきょく流産させてしまった苦い経験があるからだそうだ。だが、その悲しみを乗り越えて新たに授かった子供は、幼い頃より雑草を好んで食べ、成人となったいまでは頭脳明晰、体躯も立派な男性に育ったという。まあ、このあたりの記述は多分に親馬鹿も入っているのだろうが、生まれてからずっと雑草食を続けてきた事例は世界的にもほとんどないだけに、学会ではおおいに注目されているとかいないとか。
 ところで、世間では「草食男子」という言葉がどういうわけか、性格が穏やかでセックスに消極的な男という意味で広まっているようだが、そもそもの発信元である本書を読めば、この語がまったく正反対の意味で使われるべきものだということがおわかりいただけるだろう。これを機会に、「草食男子」という言葉が本来の意味で使われることを願ってやまない。(2009年8月)
※本日は4月1日です!

草食男子世代―平成男子図鑑 (光文社知恵の森文庫)

草食男子世代―平成男子図鑑 (光文社知恵の森文庫)