『ゲゲゲの女房』雑感

 きょうでいよいよNHK連続テレビ小説の『ゲゲゲの女房』が最終回をむかえた。
 この作品は第1回から欠かさず視聴し、自分と同じく朝ドラファンの友人と日々感想をやりとりしてきた。
 せっかくなので、これまでの感想メモをもとに、自分がこの作品を通して思ったことを、箇条書きながらUPしておく(あくまでもノート代わりのつもりなので、粗を探したりしないよーに)。
 なお、友人とのあいだでは『ゲゲゲの女房』を略して『ゲにょ』と呼んでいたので、ここでもそれを踏襲することにした。

●その1「アバンタイトルを使うのがうまかった」
 『ゲゲゲの女房』(以下『ゲにょ』)では、それまでの連続テレビ小説とはちがい、毎回オープニングの前に一場面、いわゆるアバンタイトルが置かれていた。
 このアバンタイトル、その回の話の導入部や、前回までのあらすじなどさまざまな使いようがある。『ゲにょ』は、じつに融通無碍にこの部分を使っていたように思う。
 たとえば、第1週における次のような使われ方は、かなり巧妙ではないだろうか。
 第4回の劇中、ヒロイン布美枝の両親が家で養蜂をはじめたというシーンが出てくる。そこで母・ミヤコが蜂に刺されてしまうのだが、たいしたこともないままその場面は終わる。
 翌々日放映の第6回のアバンタイトルで、これとよく似た場面がまた出てくる。私はそれを見て一瞬、回想シーンかと思ったのだが、蜂に刺されたミヤコは前々回とはちがい、そのまま倒れてしまう。
 母が蜂に刺されるというエピソードは、このあとの展開(布美枝の姉・ユキエの縁談のゆくえ)に大きくかかわってくる。そう考えると、アバンタイトルで「以前出てきたのとよく似たシーンだな……」と思わせておいて、それを引っくり返すという手法は、導入部としてよくできていると感じた。

●その2「モノを使うのがうまかった」
 『ゲにょ』の特長として、ドラマのなかでのモノの使い方、モノで語らせるということがうまかったというのがあげられる。
 たとえば、第2週、劇中の時代設定が昭和35年秋に変わった次の回(第11回)でのこと。28歳の布美枝はいまだに嫁には行かず、実家で兄嫁とともに家事をこなしていた。
 そんなある日、父・源兵衛が洗濯機と電気冷蔵庫を購入。普通なら喜ぶべきところだが、布美枝はそのおかげで仕事を失い、家にいづらくなってしまう。これを機に、布美枝は結婚を真剣に考えるようになるのだった。
 洗濯機と冷蔵庫、あるいはテレビが家に来た日というのは、いままでにもあの時代を舞台にした多くのドラマで描かれてきたと思うが、家電がこのように扱われるのは珍しいのではないだろか。
 このほかにも、布美枝が祖母からもらって片時も離したことのなかった紅の珊瑚珠のかんざし、母が縫ってくれたものの一度質屋に入れた青海波の柄の着物、見合いの席でのストーブ(これは実話にもとづくものらしい)、義父が晩年に義母の目を盗んでいた香水……などなど、劇中深い意味を持ち、私たち視聴者に強い印象をあたえたモノは多かった。

●その3「全員野球の勝利」
 『ゲにょ』において私がもっとも感心させられたのは、これだけたくさんの人物を登場しながら、いずれの人物にもきちんとしたバックボーンが用意され、ドラマの要所要所でそれぞれの役割を発揮させていたことだ。
 たとえば、布美枝の妹のいずみ。布美枝が生まれたばかりの長女・藍子を連れて一時帰郷したとき、東京へのあこがれを語っていたいずみだが、家業を継いでいたすぐ上の兄・貴司が婿入りしてしまい、家を手伝うためにけっきょく田舎に残ることになる。
 あー、いずみの夢もあっさり潰えてしまったなあ……と思っていたら、その後、二人目の子を妊娠した布美枝を手伝うよう、父から申しつけられて上京の夢がかなえられる。そしてこの間、姉の家庭と水木プロをかき回し、トリックスターともいうべき役割をはたすことになるのだった。
 そのほかにも、愛華みれが演じてるわりには、セリフがほとんどないことが気になっていた義兄の妻・佐知子が、やがて水木プロの経理としてそこそこ活躍するようになったり(姑の絹代から逃げ回る演技は絶品だった)、同じくほとんど出番のないと思ってた義弟の光男が、茂のマネージャー(まあ、これは事実にもとづく設定だが)になったりと、忘れたころに再登場するキャラがじつに多かった。
 これだけ登場人物が多いと、誰かひとりぐらい不自然な登場/退場をする役も出てきそうなものだが、そういうことは皆無に等しい。捨て駒がないというか、全員野球といった趣き。それが『ゲにょ』の魅力のひとつだった。

●その4「キャスティングの妙」
 全体を通して、キャスティングの妙を感じさせる作品でもあった。貧乏神役の片桐仁はまさにハマリ役だったし、紙芝居時代の茂の恩人・杉浦音松役の上條恒彦、茂の戦友(元軍曹)の三井役の辻萬長と、渋いキャスティングもあった。
 さらに、出演する場面のさほどない、いわゆる端役のキャスティングもおざなりにはしていなかった。
 思い出せるだけでも、布美枝の洋裁学校での同級生役の松本まりか(『純情きらり』でもヒロインの学友役だったっけ)、布美枝と茂の仲人役の小林隆、置き引き犯役の中本賢、刑事役の山崎銀之丞、貸本出版社社長役の木下ほうか、化粧品会社のセールスレディ役の笹峰愛(『あぐり』を思い出した)、悪書追放運動のリーダー役の中島ひろ子、こみち書房の大家役の九十九一、不動産屋役の田中要次、藍子の担任役の堀内敬子、猫役の永井一郎(声のみの出演だけど)、小豆洗い役の泉谷しげる(同じく)といった名前があげられる。
 ほかにも、布美枝に妊娠を告げた女医役のふせえりと、貸本出版社「おおぶね出版」の社長役の住田隆と、なぜかビシバシステムのふたりがそろって(出演回はちがうものの)出演していたり、布美枝の姉・暁子の夫「塚本」役に映画監督の塚本晋也がキャスティングされていたのには、おおいに笑わせてもらった。
 そういえば、布美枝のすぐ上の姉・ユキエ役(少女時代)の足立梨花といい、兄嫁・邦子役の桂亜沙美といい、次女・喜子役の荒井萌といい、グラビア系アイドルが好演するなかで、特撮系グラドルの長澤奈央(『忍風戦隊ハリケンジャー』)、杉本有美(『炎神戦隊ゴーオンジャー』)、水崎綾女(『キューティーハニー THE LIVE』のあつかいがわりとぞんざいだったのは、やや気になった(笑)*1

●その5「ヒロインらしからぬヒロイン」
 布美枝というキャラは、連続テレビ小説の多くのヒロインとはかなり異なる。
 夫・茂との結婚もそもそも自分で決めたものではなかったわけだし、すくなくとも、これまでの朝ドラの多くのヒロインのように、みずからその道を切り拓いていくというタイプではない。そんなヒロインの代わりを担っていたのが、たとえば、雄玄社の深沢の秘書・加納郁子ではなかったか。
 また、恋をしないヒロインに代わって、天真爛漫な性格の妹・いずみが、義兄のアシスタントと淡い恋を経験していた。
 さらにいえば、これまで連続テレビ小説の昭和もののヒロインには戦争体験がつきものだった。しかし布美枝のばあい戦時中は小学生で、さほど戦災にもあわなかったため、濃密な戦争体験というのがない。
 そんなヒロインの代わりを担っていたのが、「こみち書房」の店主・美智子だったような気がする。
 美智子の「夫を兵隊にとられる→終戦直後に幼い一人息子が病死→抑留先のシベリアからもどった夫は生きる意欲を失い、姑とともに店を切り盛りすることに→そして、夫の更正により、一家で新天地を求めて旅立つ。その日は、東京オリンピックの開会式当日であった」といった波瀾万丈の歩みは、まさに従来の昭和ものの朝ドラヒロインと共通しよう。終戦前後の美智子を主人公に、スピンオフもできそうだ。
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 以下余談。連続テレビ小説の作品のうち、『マー姉ちゃん』(長谷川毬子)、『チョッちゃん』(黒柳朝)、『あぐり』(吉行あぐり)と、ヒロインのモデルになった著名人の肉親はどうも長生きする傾向にあるようなので、武良布枝さんも水木先生に負けず劣らず長生きするのではなかろうか。というか、そう祈りたい。

*1:と思っていたら、最終回に長澤奈央が出てきた。