山崎正和に文化勲章

山崎正和文化勲章を受章したということで、去年中央公論から出た『舞台をまわす、舞台がまわる―山崎正和オーラルヒストリー―』を本の山から引っ張り出す。

演劇界、論壇、アカデミズム、そして政権ブレーンとして政界と、複数の分野で活躍してきた著者だけに、どのページをめくっても意外なエピソードが出てくる。そんなわけで、思いついたときに、ちびちび読んでいるのだけれども、きょう読んでいたら、こんな話が「余談」として語られていて驚愕した。

それは、劇作家の岸田國士に山口晋平という弟子がいて、結局「演劇の世界に深入りしないで平凡に終わ」ったのだが、その山口の息子が、社会党委員長の浅沼稲次郎を刺殺した山口二矢だという。沢木耕太郎の『テロルの決算』には、晋平が青年時代に演劇に熱中するも断念して、その後職を転々としたことに触れられているが(ちなみに妻は作家・村上浪六の長女)、まさか岸田國士に師事していたとは。とんだ「国士」つながりである。

再び、山崎正和に話を戻せば、言論人が文化勲章に選ばれるのはかなり久々ではないか。歴代受章者を見るかぎり、戦前から終戦直後にかけて徳富蘇峰(1946年に返上)、三宅雪嶺長谷川如是閑が受章した例はあるが、その後は皆無のようだ(ただし、新聞記者から小説家に転身した司馬遼太郎のような例は除いてだが)。論壇やジャーナリズムは、国の栄誉とは本質的に相対するものだからだろうか。

文化勲章親授式に、今上天皇が出席するのも今年が最後である。ちなみに文化勲章授与にあたり、天皇が授章者に直接勲章を手渡すようになったのは平成9年(1997)からだとか。今回の受章者の一人、作曲家の一柳慧小野洋子の元夫だが、小野洋子はたしか今上天皇学習院の同窓生ではなかったか。

 

 

新装版 テロルの決算 (文春文庫)

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