討ち入りせよ!「あさま山荘」事件


TBSで放映された映画『突入せよ!「あさま山荘」事件』の、最初の10分ほどと最後の10分ほどを見る。そんなんで見たなんていうなよ、と自分でも思うのだが、ラストを見ただけでだいたいこの映画がどんな映画かはわかったような気がする。
一言でいってしまえば、これって忠臣蔵でしょ? ということだ。
たとえば最後のシーンで、人質に本人かどうか確認するところや、犯人連行の役を仰せつかった警官が見せしめに犯人の顔をさらしながら歩かせていいか指揮官の佐々(役所広司)に尋ねたり、あるいは人質救出に警察や報道関係者が喝采するシーンなどは、ある意味、忠臣蔵のルーティンにのっとったものだといえるだろうし、また、やたらと豪華な俳優陣も、往年の忠臣蔵映画を彷彿させる(そのほかにも、忠臣蔵における「蕎麦屋の二階」が「寒空の下のカップヌードル」に置き換えられたのだとか、いちいち考えていくと楽しい)*1
そう考えると、これは忠臣蔵と同様にあくまでも史実をもとにしたフィクションなのだから、別に細かい部分が事実と食い違ったって問題ないし、いちいち指摘するのは野暮だ……ともいえるかもしれない。
そもそも連合赤軍によるあさま山荘事件は、三島事件とともに戦後日本における「わけがわかんない上に、下手にドラマ化したらやばそうな事件」の代表格だが、そのイデオロギッシュな部分や歴史的な文脈をすっぱり抜いて*2、ひたすら忠臣蔵並みの「通俗」に徹したことはいさぎよいといえばいさぎよいと思う。
連合赤軍事件の映画化といえば、長谷川和彦がずっと実現できないままでいる『連合赤軍』という企画があるが*3、あれもまた現代版忠臣蔵を目指したものだった(『スタジオボイス』1997年11月号の長谷川インタビューを参照)。ただ、長谷川の企画が連合赤軍側から描こうとしたものだということが、『突入せよ〜』と大きく違う。いうなれば、長谷川和彦は敵に先に討ち入られてしまったのだ。
いや、忠臣蔵にはその本筋以外にも、堀部安兵衛高田馬場の決闘など討ち入りに参加する義士たちのそれぞれのエピソードがあるわけで、連合赤軍事件でもその手のサイドストーリーを集めればそうとうの大作ができるはずだ。ひょっとしたら、それが完成した時こそ、連合赤軍事件は忠臣蔵と並ぶ国民的ドラマとなるのかもしれない。

*1:しかし、忠臣蔵ほど何にでもなぞらえることができる物語もないのではないか。やろうと思えば、あさま山荘事件三島事件でも、さらにはビートたけしフライデー事件加藤紘一の乱だって、はたまたフセインの拘束だって忠臣蔵になぞらえることができるのだ。これってやっぱりすごいと思う。

*2:もし歴史的な文脈に少しでものっとろうとするなら、当然、あさま山荘事件後に発覚した連合赤軍内のリンチ殺人にも触れなければならないはずだが、この映画ではその事実には一切触れられていない。

*3:原田芳雄森恒夫とか、樹木希林永田洋子なんて、本当に見たかったのにな〜。もうこの配役は絶対無理だろうけど。