ちなみに国内での天然ガス生産量1位はどこなのかというと、断トツで新潟県のようです(参照)。新潟といえば、沿岸にいくつか油田があり石油が産出されていることでも知られています(参照)。これらのことからは、資源の乏しい日本にあって新潟県はきわめてエネルギー資源自給率の高い県だということが言えるのではないでしょうか。そこでぼくが思い出すのは、新潟出身の政治家・田中角栄のことです。彼は首相在任中、新たなエネルギー資源調達ルートを確保するべく東南アジアや南米、ソ連などを訪問し独自の「資源外交」を展開したほか、石油に代わるエネルギーとして原子力に着目し、自らの地元である柏崎に原子力発電所を積極的に招致するなど、エネルギー政策に並々ならぬ力を注ぎました。これには首相在任中に起きた第一次オイルショック(73年)も当然ながら強く影響しているわけですが、一方で彼の故郷である新潟県がわずかながらも資源を自給しているということもその政策の背景にはあったのではないか、とぼくはそんな気がするのです。
ところで田中角栄の金脈問題による首相辞任と、その後のロッキード事件での逮捕は、アメリカによる陰謀だという説があります。これは、アメリカに依存しない資源調達ルートの確保を目指した彼の資源外交が、アメリカの逆鱗に触れて失脚させられた……というもので、政治家などのあいだではいまだに根強く信じられているようです。しかし最近になって、そういった陰謀説を覆すことを目的に一冊の本が刊行されました。それが今月の『ウラブ』の書評でも紹介した徳本栄一郎の『角栄失脚 歪められた真実』(光文社ペーパーバックス、ISBN:4334933491)という本です。アマゾンのカスタマーレビューには、かなり辛辣な意見が多いですが、自分の生まれた年(76年)に発覚したロッキード事件とは一体どんな事件だったのか改めてよく知ることができましたし、ぼくにはとても面白く読めました。何より、陰謀説という政界における一種のトラウマ*1を克服させようという著者のもくろみには十分意義があると思います。
今回の書評ではこのほかにも、隣接する町同士で公共事業として行なわれる戦争を描いた話題作・三崎亜記『となり町戦争』(集英社、ISBN:4087747409)と、先日も紹介した井上章一&関西性欲研究会の『性の用語集』(講談社現代新書、ISBN:4061497626)と新刊3冊と、それから「懐かしのこの作品」枠として阿部和重のエッセイ集『アブストラクトなゆーわく』(マガジンハウス、ISBN:483871167)をとりあげています。