天皇の映画の計画

そういえば昭和天皇とまったく同じ日、1901年4月29日に生まれた歴史上の人物がもう一人いる。ゾルゲ事件に関与し1944年に処刑された尾崎秀実(ほつみ)だ(ただし戸籍上の誕生日は5月1日)。数年前にこの事実を知った時、天皇とスパイという組み合わせの妙に、いっそのことベルトルッチの『1900年』よろしく、『1901年』というタイトルで、同じ日に生まれた両者の人生が交錯するといった映画を誰か撮ればいいのに……と考えたことがある。篠田正浩が『スパイ・ゾルゲ』を撮ったのはそれからしばらく経ってからのことだが、尾崎秀実役の本木雅弘をはじめ、近衛文麿榎木孝明西園寺公望大滝秀治という香ばしい配役に少し惹かれたものの、結局いまにいたるまで観ていない。
尾崎秀実に関しては、実弟で作家の尾崎秀樹(ほっき)の書いた『デザートは死』という現在は中公文庫から出ている本が面白い。何たってタイトルからしていい。『デザートは死』だなんて、「気休めは麻薬」とか「女は海」とか「くちびるに火の酒」とかみたいで、まるで歌に出てきそうなフレーズではないですか。
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きょうの写真は昭和天皇があくびをする瞬間を撮った珍しい写真(1975年撮影。出典は『別冊一億人の昭和史 昭和 天皇史』1980年、毎日新聞社)。大塚英志が言っている「かわいい天皇」というのは、たぶんこのイメージに近いのではなかろうか。