おことば

ちなみに上で我田引水したのは、裕仁君こと昭和天皇が、1975年の訪米後の記者会見で戦争責任について問われた際の発言である。引用にあたっては一言もいじっていない。
昭和天皇の発言に関しては、最近、文春文庫から岩見隆夫の『陛下の御質問 昭和天皇と戦後政治』(ISBN:416767940X)という本が出た。それを知って、さっそく買い求めたのだが(何せぼくは以前にも書いたように昭和天皇語録マニアだから)、これがなかなか面白かった(ちょうど「昭和の日」をめぐる祝日法の改正案が国会を通った直後の刊行となったのは偶然だろうか)。
ただやはり時代が近すぎるせいか、昭和天皇の発言が誰のことを指しているのか伏せている箇所もあって、ちょっともどかしい。たとえば、ある首相の国会での指名ののち、議長がそれについて参内し報告をしたところ、天皇が「××(首相の名前)とは、どんな男か」と訊ねたという話が出てくるのだが(岩見によれば《この話は政界にひそかに流布され、首相の資格に対する天皇の懐疑的な言辞ではないか、と受け取けとられた》という)、これが実話だとするなら、一体どの首相のときの発言だったのかやはり気になるところ。
天皇・皇族の発言に関する本としては、来月にも新潮社から島田雅彦編で『おことば―戦後皇室語録―』(ISBN:4103622075)という本が刊行されるみたいで(参照:新潮社・単行本 新刊速報)、ここ数年皇族をモデルにした「無限カノン」三部作と呼ばれる連作を手がけてきた島田が果たしてどんな「御言葉」を選び、皇室論を展開するのか、いまから楽しみである。