昭和の妖怪と夢精

岸信介で一つある話を思い出した。昨年、岩川隆の『巨魁《岸信介研究》』(徳間文庫)という本を読んでいたら、あとがきで、A級戦犯として収監されていた巣鴨プリズンから出所した直後、すでに53歳となった岸が友人知人に対して、「(獄中で)困ったことは月に二回ずつきまって夢精することだったよ。年甲斐もないとは思うが、こればかりは仕様がないんだよ。おまけに、あとの洗濯が、寒い日などつらくてねぇ」と語り皆を驚かせたという逸話が紹介されていて、何とも言えない不気味さを覚えてしまった。もしかしたら処刑されるかもしれないという不安が、本能的に子孫を残そうという生理現象を引き起こしたのだろうか? そんなふうに考えていくとますます気味が悪くなってくる。
この岸の発言とくらべたら、昨年小泉純一郎が身内に対してこっそり語っていたという「オレ、最近夢精しちゃうんだよね」という発言(参照)など実に無邪気で、何の不気味さも凄みも感じられないから不思議なものである。同じ夢精なのにねえ。