見てもいない番組をタイトルからその内容を勝手に想像してみる――フジテレビ『悪いのはみんな萩本欽一である』
明日(27日)午前中にフジテレビの「チャンネルΣ」の枠で『悪いのはみんな萩本欽一である』という番組が放映されるそうだ。そのタイトルとリンク先の内容紹介からは、萩本がテレビの世界にどれだけ多くの“テレビ的お約束”を生み出し、慣例として残してきたか、それらを“悪影響”として逆説的に示そうという意図がうかがえる。
残念ながら、私の住む中京地区では放映がないようだが、ネット配信なりソフト化なりなんらかのかたちで、広く見られるようにしてもらいたいものである(とりあえず、関東の友人に録画を頼んだ)。
ちなみにこの番組のディレクターを務めた是枝裕和が参加するテレビマンユニオンには、萩本はその設立以来40年以上にわたって出資を続けている。また是枝は一昨年、テレビマンユニオンの創設者の一人である村木良彦の生涯と作品をとりあげた、『あの時だったかもしれない〜テレビにとって「私」とは何か〜』(2008年)というドキュメンタリーを手がけているが(これは放映時に見たけど面白かった。ソフト化はしないのだろうか)、今回の作品はその続編として見ることもできるかもしれない。
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私が物心ついたころ、すでに欽ちゃんは、ファミリー向けのぬるい番組の人という位置づけになっていた。しかし、いかに萩本がテレビ界に革命をもたらしたか。最近、ビートたけしがある番組で(はて、あれは何の番組だったか)、「萩本さんが芸人の地位を上げてくれた。それまで歌番組の司会を芸人がやるなんてことはなかったわけだから」というようなことをいみじくも指摘していが、あのたけしをしてそう言わしめるほど、萩本の残したものは大きかったわけである。
そのことは以前、「放送作家のあがり方」という文章を書くにあたり、あれこれ調べてみたときにも強く感じた。
坂上二郎とのコント55号としての活動を休止した萩本は、単独での活動に移行するにあたり、自分のもとに放送作家の卵たちを集めて、共同生活をしながらアイデアを練るということを始めた(ただし、このようなブレーン会議は、それ以前にも先代の林家三平がはかま満緒など若手の作家を集めて行なっていたようだ。ちなみに、萩本のもとに集まった作家のうち大岩賞介は、もともとはかまに師事していた)。
やがて萩本は、バラエティ番組以外にも将来を見据えてドラマの脚本家を育てようと考える。ここから、のちに『踊る大捜査線』などをヒットさせる君塚良一が萩本の作家集団に参加することになる。
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人材発掘ということでいえば萩本はまた、テレビのロケ中に団地でラジオ番組のレポーターをしていた局アナを気に入り、彼を新たに始まるテレビ番組の司会に推薦している。その局アナこそ久米宏であり、番組は『ぴったしカンカン』だった。局アナのタレント化なんてことも、ひょっとすると萩本がいなければ起きなかったのかもしれない。
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萩本のもとで育った作家のうち大岩賞介は、いまでは明石家さんまの番組でその名をよく見かける。
思えば、テレビにおけるかつての萩本の位置は、浅草での後輩芸人にあたるビートたけしよりも、現在のさんまのほうにより近いといえるかもしれない。誰だったか、「芸能人をいじらせるなら島田紳助、素人をいじらせるならさんまの右に出る者はいない」というようなことを言っていた人がいるが、テレビで“素人いじり”を始めたタレントこそ萩本だった。
ついでにいえば、さんまの運転手だったジミー大西を「天然(ボケ)」と名づけたのもまた萩本欽一であることは比較的よく知られている。
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最近、伊集院光がiPhoneをつけた自転車に乗りながら、実況中継をしているのを見て、ふと、むかし小林信彦の書いた「踊る男」という短編小説(『ビートルズの優しい夜』に収録)を思い出した。この小説については以前にもこのブログでちょっと紹介したが、萩本をモデルにしたと思しきタレントが、ラジオの生番組で、皇居のまわりを走りながら実況するというものだった。
小林はまた、『日本の喜劇人』のなかで、萩本の発想の基本が〈テレビ=ドキュメンタリー〉説であるとして、ドキュメンタリーの要素をいかに彼がテレビ・バラエティに取り入れてきたかを紹介している。
ラジオやテレビのリアル・メディアという要素を、初めて意識的に笑いに利用したのもまた萩本欽一だった、といえるのかもしれない。
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いとうせいこうが萩本欽一のつくった短編映画『手』を観て泣いて、いままで萩本を馬鹿にしていたことを反省したということを、著書『ワールドアトラス』のなかで書いていて、引用したいと思ったのだが、肝心の本が見つからない……。
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それにしても、こういう箇条書きの形式だといくらでも書けてしまいそうである。が、とりあえずこのへんで当エントリはおしまいとしたい。

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