(1)迎賓館赤坂離宮が国宝指定へ

 昨日(16日)、文化審議会迎賓館赤坂離宮を国宝に指定するよう答申した(私は名鉄電車内の電光ニュースで知った)。明治以降の作品(建築だけでなく美術工芸品も含む)としては初めての国宝指定となるらしい。
 以下、そのことを伝える各紙の記事より、個人的に気になった箇所を抜粋。

 旧東宮御所は、重要文化財と同時指定された。片山東熊(とうくま)の設計によるネオ・バロック様式の宮殿建築で、1909(明治42)年、皇太子明宮嘉仁(はるのみや・よしひと)親王(後の大正天皇)の住居として完成した。戦後、2度、大きな改修が施され、今年100年を迎えた。
 西欧の建築様式を採用しながらも、屋根の甲冑(かっちゅう)をかたどった青銅製彫刻など日本的な装飾も見られ、「明治以降、昭和戦前に建設されたわが国の建築を代表するものの一つとして、文化史的意義が特に深い」と評価された。
  朝日新聞

 旧東宮御所は石造りと鉄骨れんが造りを組み合わせた2階建てで、建築面積は約5000平方メートル。正面外壁をよろいかぶと、弓矢をかたどった青銅彫刻で飾り、内装も壁に七宝焼を埋め込むなど、装飾に和の要素を取り入れている。
 1974年から外国からの賓客の宿泊や歓迎式典、先進国首脳会議(サミット)はじめ国際会議に使われ、外交の舞台となってきた。
  時事通信

 記事中に出てくる「甲冑をかたどった青銅製彫刻」というのは、これですね。
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(上の写真の甲冑像は、下の写真からうかがえるように正面玄関の屋根の上の左右に載っている)
 ただし、このような日本的モチーフが用いられいていることについては、《やや泥くささがあって抵抗を感ずる》(『日本近代建築の歴史』岩波現代文庫、2005年。原本は1977年刊)という建築史家・村松貞次郎による否定的な意見もある。だが、この一文に続く村松の評からは、赤坂離宮がなぜ明治建築として初めて国宝に選ばれたかがよくわかるのではないか。

 赤坂離宮は、いってみれば、日本の建築界が明治一代をかけて学習した西欧の建築の、様式と技術の総決算、あるいはその卒業制作として日本の近代建築史に重要な位置を占めるものである。と同時に明治という時代の大きな記念碑と見ることもできるだろう。卒業制作としてみれば、その成績は七、八十点というところであろうか。僅々三、四十年の成果としては、驚くほどの急速な成長といえるが、デザインの洗練度から見れば、まだ生硬であり、完成度に難がある。
  村松、前掲書

 旧東宮御所として建設されて以来のこの建物の来歴については、産経がけっこうくわしく紹介している。

 国賓の宿泊や国際会議など「外交の舞台」を担う迎賓館赤坂離宮。明治42(1909)年の建設で、建物は地上2階、地下1階の鉄骨れんが造りで、延べ床面積は約1万5千平方メートル。宮内省(当時)が設計し、10年がかりで建てられた。天井はさまざまな絵画で彩られ、重さ約1トンのシャンデリアなど豪華な内装。総事業費510万円は「現在の500億から1千億円」(迎賓館庶務課)に相当し、明治天皇が「ぜいたくだ」と漏らしたとされる。
 戦後は国会図書館裁判官弾劾裁判所法廷などとしても使われた。外国要人の来日増に伴い、宿泊室ごとのバス・トイレの設置など大規模改修を経て迎賓館となったのは昭和49年。
 フォード元米大統領やエリザベス2世英女王らが訪れたほか、東京サミット会場としても3回使われた。
 内部の一般参観は毎年夏に実施しているが、今年は11月下旬に前庭を一般開放する予定だ。
  MSN産経ニュース

 11月下旬の一般開放、行きたいなあ。
 なお今回の国宝指定は、重要文化財指定と同時に答申された(つまりこれまで重文にも指定されていなかった)が、それは以下のような理由だったとか。

 旧東宮御所は1974年以降、国の迎賓館として使用されており、警備上の理由などから文化財とする手続きをとっていなかった。そのため、今回は国宝指定の前提である重文指定の答申も同時に受けている。
  読売新聞

 これまでの最も新しかった建造物の国宝は、1864年完成の大浦天主堂長崎市)。美術工芸品を含め明治以降の近代の作品に国宝はなかった。
  毎日新聞

 ちなみに歴史的に重要な建物であっても、重文、国宝指定を受けていないものはけっこうある。たとえば、桂離宮がそうだ。どうやら、皇室の所有物であり、宮内庁が管理しているので、文化財保護法による国宝や文化財などの指定の対象外となっているということらしい。ちなみに同じ理由から正倉院も長らく国宝指定されてこなかったが、世界遺産登録を前に指定されている。これは、世界遺産の登録には、所在国の法律により文化財として保護を受けていることが求められるため、例外的措置として行なわれたのだという。