おまえに蝋人形を買わせてやる!

d-sakamata2006-12-01

「蝋人形400体買って」 社長、博物館の夢破れ
2006年11月28日14時15分
 写真:蝋人形の昭和天皇(右)と阿南惟幾陸将(左)を披露した花輪清隆さん=本社スタジオで
 蝋(ろう)人形制作会社シーピーエー(東京都新宿区)が、約400体に及ぶ在庫の売却先を探している。花輪清隆社長(59)は「商売抜きで凝りまくったあげく、身上をつぶした」と苦笑し、蝋人形を展示してくれる人にまとめて譲る考えだ。
 戦時中に陸軍報道班員だった花輪社長の父が、戦後に欧州などの戦争博物館を視察し、その多くで蝋人形が活用されている点に着目。広告会社を経営しながら、日本の湿度に耐えうる蝋人形の技術を研究した。
 花輪社長は大学卒業後に父の会社を継ぎ、蝋人形づくりを本格化させた。文献を調べ、親族や関係者を捜し出し、身長や体形の特徴を聞き取る。様々な角度で写った顔写真や肖像画を最低5枚はそろえ、芸大出身の技術者たちに発注する。
 これまでに平清盛伊達政宗坂本龍馬といった歴史上の人物のほか、長嶋茂雄さんや山口百恵さんら現代の著名人をモチーフに計700体ほど作ってきた。一部は、平家物語歴史館(高松市)、みちのく伊達政宗歴史館(宮城県松島町)、シンガポールの歴史館などに展示されている。現代の人物は「気味が悪いほどそっくり」と評判を呼んでいる。
 花輪社長は「激動の20世紀を蝋人形で伝える博物館をつくる」という夢を持ち、採算度外視で人形作りに奔走してきた。
 今回の売却対象の目玉は、戦中、戦後の歴史的シーンの登場人物だ。ポツダム宣言受諾を決めた最後の御前会議に出席した昭和天皇や全閣僚、米艦ミズーリ号上での調印式の出席者、東京裁判の裁判官らが細密に再現されている。
 納得するまで作り直す性分。山本五十六連合艦隊司令長官は4回も作り直した。が、1体つくるのに、200万〜500万円程度かかる。在庫を保管する倉庫代もかかる。バブル崩壊後、資金繰りが厳しくなり、独自の博物館開館は断念した。
 父の代には、最大で300人の従業員を抱えたが、今では約30人。「最近、事業は縮小に次ぐ縮小で、自宅の一室を事務所にしている」という。
 「もうこのへんで終わりにしたい。だれか私の代わりに博物館を作ってほしい。この価値を分かってくれるなら、価格面は相談に乗ります」

 http://www.asahi.com/national/update/1127/TKY200611270108.html

たまたまウェブ上を回遊していたら見つけたasahi.com11月28日付の記事。写真の昭和天皇阿南惟幾の蝋人形が、暗いなかスポットライトをあてられているせいか、妙におどろおどろしい。
これほどまでに精巧につくられた蝋人形はたしかに教材としては大いに活用できそうではある。しかし、これら蝋人形をまとめて買い取り、社長が構想する歴史博物館を代わりにつくってくれるなんて酔狂な人物や団体が果たしてきょうびあるだろうか。400体一括ではなく、セット単位でのばら売りを認め、それを各地の博物館が買うにしても、展示スペースの確保や、そもそも制作費に見合った金額を払うだけの価値があるのかどうかを考えると、あまりにもリスクが高すぎるような気がする。
といいつつ一方では、これだけ精魂こめてつくられた蝋人形がこのまま死蔵、あるいは処分されてしまうのは惜しい、とも思う。なにより、誰から頼まれるでもなく、ただおのれの理想として描く博物館の実現のためにせっせと人形の制作に奔走してきたというのが泣かせるではないですか。400体の蝋人形たちの安住の地がなんとか無事見つかりますように……と個人的心情としては祈りたい。